Cherenkov Telescope Array (CTA) is the next-generation ground-based very-high-energy (VHE) gamma-ray observatory which is under development with a collaboration among Japan, EU, US, and several other countries. As shown in Figure 1, several tens of telescoeps with different aperture sizes (mirror diameters) are to be built in a wide area of several km2 to achieve a wide energy coverage of 20 GeV to 300 TeV with 10 times higher gamma-ray detection sensitivity than those of the current telescopes.
チェレンコフ望遠鏡アレイ(Cherenkov Telescope Array、CTA)は超高エネルギーガンマ線を地上から観測する次世代の天文台です。図 1 に示すように、異なる口径(鏡直径)の望遠鏡を数 km2 の広範囲に多数配置することで、20 GeV(ギガ電子ボルト)から 300 TeV(テラ電子ボルト)のエネルギー範囲にわたるガンマ線を、現行のガンマ線望遠鏡の 10 倍のガンマ線検出感度で観測します。日欧米を中心として現在開発が進められており、2017 年の望遠鏡建設に向けて名古屋大学でも精力的に装置開発を進めています。
超高エネルギーガンマ線の観測目的は、超新星残骸やブラックホールといった宇宙の様々な天体で起きる粒子加速やその伝播を明らかにすることです。加速された荷電粒子(おもに陽子、ヘリウム原子核、電子など)は星間磁場や銀河間磁場の存在により進行方向を曲げられてしまうため、荷電粒子の進行方向から天体の位置情報を得るのは困難です。しかしガンマ線は磁場によらず直進するため、ガンマ線の飛来方向を観測から明らかにすることで、高エネルギー天体の位置情報やその空間的な広がりを知ることができます。またガンマ線のスペクトルを詳しく調べることで、荷電粒子のエネルギースペクトルにも遡ることができます。
ガンマ線観測で分かることは高エネルギー天体の性質だけではありません。暗黒物質同士が衝突したとき、その対消滅にともないガンマ線も生成されると考えられており、その特徴的なエネルギースペクトルや空間分布が CTA でも近い将来観測されるかもしれません。
表 1 に示すように、低エネルギー、中エネルギー、高エネルギーの 3 つの帯域を CTA では大口径、中口径、小口径望遠鏡でそれぞれ観測します。異なる大きさの望遠鏡直径を組み合わせるのは、天文台全体としての観測エネルギーのダイナミックレンジを広げるためです。大気チェレンコフ光の光量は入射ガンマ線のエネルギーに比例するため、異なる大きさの望遠鏡を使うことで低エネルギーから高エネルギーまで撮影することが可能になります。
望遠鏡を多数並べるのは、到来頻度の非常に低いガンマ線を広大な面積で検出して光子統計を増やすためです。北半球に約 20 台、南半球に約 100 台の望遠鏡を設置することで、従来のガンマ線望遠鏡よりも 1 桁高いガンマ線検出感度を達成すると期待されています。
大口径望遠鏡 Large-Sized Telescope (LST) |
中口径望遠鏡 Medium-Sized Telescope (MST) |
SC 中口径望遠鏡 Schwarzschild–Couder MST (SC-MST) |
小口径望遠鏡 Smalle-Sized Telescope (SST) |
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FlashCam | NectarCAM | GCT | ASTRI | 1M-SST | |||
観測エネルギー範囲 Required Energy Range |
20 GeV – 3 TeV | 80 GeV – 50 TeV | 80 GeV – 50 TeV (Copied from MST) |
1–300 TeV | |||
中心エネルギー範囲 Core Energy Range |
20–150 GeV | 150 GeV – 5 TeV | 150 GeV – 5 TeV (Copied from MST) |
5–300 TeV | |||
台数(北半球) Units (North) |
4 | 15 | 0 | 0 | |||
台数(南半球) Units (South) |
4 | 25 | 25(incl. FlashCam/NectarCAM) | 70 | |||
鏡直径 Mirror Diameter |
23 m | 12 m | 9.7 m | 4.3 m | 4 m | 4 m | |
焦点距離 Focal Length |
28 m | 16 m | 5.6 m | 2.28 m | 2.15 m | 5.6 m | |
視野 Field of View |
4.3° | 7.5° | 7.7° | 7.6° | 8.3° | 10.5° | 8.8° |
光学系 Optics |
放物鏡 Parabola |
Davies–Cotton (DC) | Schwarzschild–Couder (SC) | SC | SC | DC | |
画素数 Pixels |
1,855 | 1,764 | 1,855 | 11,328 | 2,048 | 2,368 | 1,296 |
宇宙地球環境研究所の貢献 |
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Contributions by ISEE |
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名古屋大学は CTA 計画に参加する世界中の大学・研究機関の中でも中心的な役割を果たしています。宇宙線物理学研究室(CR 研)の田島宏康教授、奥村曉助教のグループはおもに 3 つの望遠鏡の開発に参加しています。
CTA の高エネルギー側を担うのは小口径望遠鏡です。表 1 に示すように小口径望遠鏡には 3 つの設計案が存在し、そのうち Gamma-ray Cherenkov Telescope(GCT)と呼ばれる望遠鏡の開発に宇宙地球環境研究所は参加しています。
GCT では副鏡を有する Schwarzschild-Couder 光学系を使用するため、従来の地上ガンマ線望遠鏡に比べて結像性能が高く、また焦点面カメラの直径が小さくなります。そのため光学性能に合致した小型のカメラが必要になります。宇宙地球環境研究所では図 2 に示すような、64 画素のカメラモジュールを米ハワイ大学、米 SLAC 国立加速器研究所、英レスター大学などとの共同で開発しました。このカメラモジュールを 32 個並べることで、図 3 に示す焦点面カメラを構成します。宇宙地球環境研究所はこのモジュールに使用する集積回路の開発と性能評価、光検出器の性能測定、焦点面カメラの制御とデータ取得ソフトウェアの構築、また光学系シミュレーションを担当しています。
この焦点面カメラはパリ天文台に設置された GCT の試作望遠鏡に搭載され、2015 年 11 月に試験観測を行いました。CTA の試作カメラ・望遠鏡としては初めて、宇宙線陽子の生成した大気チェレンコフ光の観測に成功しました。
小口径望遠鏡と同様のカメラモジュールを用いて、SC 中口径望遠鏡の焦点面カメラの開発も平行して進めています。SC 中口径望遠鏡は Davies-Cotton 型ではなく Schwarzschild-Couder 型の光学系を用いるため、視野 9.6°を 4 分角程度の結像性能で見渡すことができます。この焦点面カメラは GCT の焦点面よりも大きく、同じカメラモジュールを 177 個並べます。
図 5 は SC 中口径望遠鏡と GCT のために開発した専用集積回路 TARGET(arXiv:1105.1832)の写真です。
大口径望遠鏡は CTA の中で最大となる口径 23 m の光学系を持ちます。これは可能な限り低エネルギーのガンマ線を観測するためのもので、微弱な大気チェレンコフ光をこの巨大な鏡で集光します。低エネルギーのガンマ線を効率良く観測するには、鏡の巨大化だけでなく、鏡の反射率の向上、光検出器の高量子効率化、また光検出器への集光効率の改善が重要です。この集光効率の改善のために、図 6 に示す六角形の集光装置が光電子増倍管 1 本ずつに取り付けられます。
宇宙地球環境研究所ではこの集光装置の性能を従来の 5% から 10% 程度改善することを目指し、反射フィルム(arXiv:1508.07776)の開発や集光効率の高い装置形状の開発(arXiv:1205.3968)に取り組み、茨城大学と共同で集光装置を製作しています。図 3 は、大口径望遠鏡の試作カメラに実際に集光装置が取り付けられた様子です。